執筆者:院長 上川名 修
目次
低血糖症とは
低血糖症とは血糖値が急激に降下したり、低いままでとどまったりする病気です。
血糖値が不安定になるとホルモンのバランスが乱れたり、自律神経のバランスが乱れて精神的にも身体的にも様々な症状を引き起こします。
多くの場合、インスリンが過剰に分泌されることが原因ですが先天的な体質の問題の場合もあります。
低血糖症の症状に関わる要因
- 血糖値がどのくらい低いままでとどまるか、あるいは単位時間当たりの乱高下の程度(低血糖症の重症度)
- 身体を調節する自律神経の機能の低下の問題
- ノルアドレナリン、アドレナリンを抑制するセロトニンなどの脳内ホルモンを生成する能力の問題
- 脳内ホルモンを合成するための栄養(特にタンパク質)の摂取量
- ビタミンB、ミネラルの摂取程度(精製食品の利用頻度)
- 貧血・糖尿病・甲状腺疾患などの血糖調節やホルモン分泌に関与する合併症の有無
- 血糖値を調節するインスリンの分泌と作用に対する先天的障害の有無(β細胞のシグナルの以上など)
- 日常生活や食生活の安定性
低血糖症の症状
低血糖になると以下のような症状が見られます。
- 眠気が襲ってくる
- 理性的な判断が鈍る
- 感情をコントロールしにくくなる
- キレる
- 怒り、憎しみ、焦り等の感情
- 不安、恐怖感、落ち込み、焦燥感などの精神症状
- 不眠
- 自殺願望
- 身体の緊張と興奮
- 身体のだるさ
- 震え
以上上げたように、自律神経失調症やうつ症状とも共通しています。
交感神経が優位になるために不安や恐怖が増しパニック発作が引き起こされることもあります。
なぜこのような症状が引き起こされるというと、血糖値が下がるとアドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンが分泌されるからです。
この3つのホルモンをカテコールアミンと言います。
カテコールアミンの作用
カテコールアミンの作用を解説します。
アドレナリンの作用
カテコールアミンの一つ、アドレナリンはストレスがかかると分泌されるホルモンでもあります。
交感神経を刺激し、興奮しますがその後に非常に疲れを感じます。
アドレナリンは別名「攻撃ホルモン」と呼ばれ、怒り、暴力、敵意、といった攻撃的な感情を呼び起こします。
ボクサーがリングの上で闘っている時などはアドレナリンが多量に分泌して闘争心を呼び起こします。
絶えず脳がアドレナリンによる刺激を受けていると、脳が混乱しうつ症状や自律神経失調症を引き起こします。
また脳内では自律神経中枢と性ホルモン中枢が近い位置にあるため、低血糖状態が続くと女性ホルモン分泌がアンバランスになり生理不順や無月経になることもあります。
ノルアドレナリンの作用
ノルアドレナリンは、恐怖感、不安感、強迫観念、自殺観念、などの否定的な感情を呼び起こします。
通常このような感情が湧いたときには人間の脳は理性的な判断をして調整を行ないます。
しかし、低血糖状態などでノルアドレナリンが急激に分泌されると前頭葉が麻痺し、理性的な判断をすることが難しくなりパニックを起こすことがあります。
パニック障害は大脳の青班からのノルアドレナリンの過剰分泌により発症する病気ですが、低血糖症でノルアドレナリンが過剰分泌されると同様の症状を起こすことがあります。
パニック障害と低血糖症
パニック発作に見られる症状と低血糖症による症状には共通点が見られます。
空腹時に急激に血糖値が上がるような食べ物(砂糖、精製した糖質等)を摂取すると、血糖値が急激に上昇します。
急激に上昇するとインスリンが多量に分泌され、血糖値が下がります。
血糖値が下がると今度は低血糖になってしまいますので血糖値を上げるためのホルモンが分泌されます。
それがカテコールアミンです。
カテコールアミンの働きで血糖値は上がりますが、同時に交感神経に作用し自律神経失調症状を引き起こすことがあります。
それが急激に起こったときにはパニック発作と同様の症状が出ます。
実際にパニック発作を起こした人が低血糖症によるものである可能性は案外高いのではないかと考えられます。
うつと低血糖症
パニック発作と同様にカテコールアミンの働きでうつ症状も引き起こされます。低血糖時には大脳皮質の機能が低下し理性的な判断が出来にくくなります。理性的な判断に基づいた行動が取りにくくなります。
疲れていて休息が必要なのに逆に頑張って働き続けてしまうケースもあります。
自分の身体の疲れ具合を正常に判断できなくなってしまうのです。
またそれが突き進んでしまうと逆に引きこもってしまったりするケースもあります。
脳と身体のアンバランスを感じて、他人との交流する意欲が低下してしまうのです。
うつになりやすい性格として、完璧主義が挙げられますが、低血糖症でアドレナリンが分泌されると一つの物事を完全に成し遂げようとする感情が湧いてきます。
本当は身体は疲れているのにアドレナリン分泌により疲れに気づかずに働き続けてしまうと、あとで非常に疲れて寝込んでしまったりということもあります。
うつで休職する人は、ギリギリまで頑張り続けてあるときに限界が来て会社に行けなくなったり布団から朝起きられなくなってしまったりという人がいらっしゃいます。
血糖値を上げるホルモンを分泌して働き続けることは身体にとってはとても負担が大きいことなのです。
参考文献:低血糖症と精神疾患治療の手引 柏崎良子 著
【関連ページ】