私たちは日々、さまざまな感情を体験しています。
嬉しい、楽しいといったポジティブな感情は歓迎されがちですが、怒りや悲しみ、寂しさ、不安といったネガティブな感情は「感じたくない」「見たくない」と避けてしまうことが多いのではないでしょうか。
しかし、感じたくないからといって感情を無視したり抑え込んだりしていると、そのエネルギーは心だけでなく、身体にも蓄積されていきます。やがてそれは、慢性的な緊張や不調として表面化してくるのです。
では、「感情を味わう」とはどういうことなのでしょうか?
それは単に感情について考えたり、思い出を振り返って分析したりすることではありません。
本当の意味での「感情を味わう」とは、身体の感覚を通して今ここでリアルに感情のエネルギーを感じることです。
この記事では、感情を味わうことの本当の意味と、それを助ける手段としての整体の役割について解説していきます。
ネガティブな感情との向き合い方に迷っている方、思考ばかりが先行して感情がよくわからないという方に、きっとヒントになるはずです。
【感情はエネルギー】味わわなければ身体にたまる
● 感情は「流れる」もの――止めるとよどみになる
感情とは、一時的に湧き上がり、やがて自然に静まっていくエネルギーの流れのようなものです。
怒りや悲しみ、恐れ、寂しさといった感情も、本来は一時的に訪れて、きちんと味わい尽くせばやがて静かに過ぎ去っていきます。
ところが現代社会では、「感情を出すことは大人げない」「ネガティブな感情は弱さの証」「感情はコントロールすべき」といった風潮があります。
その結果、多くの人が感情を感じること自体を避け、抑え込み、見て見ぬふりをするようになっています。
でも、感情というエネルギーは、感じてもらうことを求めて何度も姿を変えて現れます。
抑えれば抑えるほど、行き場を失ったエネルギーは身体の中に滞り、よどみとなって心身に影響を及ぼしはじめるのです。
● 抑え込んだ感情は身体にたまり、やがて不調となって現れる
例えば、「怒ってはいけない」と自分に言い聞かせ続けている人は、怒りのエネルギーを無理に内側に押し込んでいます。
すると、そのエネルギーは筋肉の緊張として表れ、肩こりや歯の食いしばり、胃の不調といった形で身体に現れることがあります。
また、悲しみを我慢し続けている人は、胸の奥が締めつけられるような感覚を抱えていたり、呼吸が浅くなっていたりします。
私たちは無意識のうちに、感じたくない感情を「感じないようにする」努力をしてきたのかもしれません。
けれど、その結果として、身体の中に処理されないまま残された感情の残骸が積み重なっている可能性があるのです。
特に、慢性的な緊張や疲労感、原因不明の痛みなどは、抑圧された感情エネルギーのサインであることも少なくありません。
● 潜在意識と身体はつながっている
顕在意識では「もう大丈夫」「過去のこと」と思っている出来事でも、潜在意識や身体はその記憶を持ち続けています。
たとえば、子どもの頃に親に否定された経験、学校での屈辱的な出来事、別れの悲しみなど――表面上は忘れていても、当時感じきれなかった感情が今もなお身体のどこかに閉じ込められていることがあるのです。
潜在意識に埋もれた感情は、言葉ではうまく説明できません。
けれど、身体は正直です。整体の施術中や瞑想中にふいに涙がこぼれたり、胸が締めつけられたり、突然昔の記憶が蘇ったりすることがあります。
それは、身体が安全な状態になったことで、閉じ込めていた感情エネルギーが「今こそ出してもいいよ」と表面に浮かび上がってきたサインです。
● 感情を味わうことは、心身の流れを取り戻すこと
感じきれなかった感情が蓄積されると、心身の流れは滞り、慢性的な不調が起こりやすくなります。
だからこそ、「感情を味わう」という行為は、感情のエネルギーを自然な形で流し、心と身体の健やかさを取り戻すために欠かせないプロセスなのです。
整体という身体へのアプローチは、こうした感情エネルギーの滞りに気づくきっかけを与えてくれます。
身体が緩み、感覚が開いてくると、普段は気づけなかった微細な感情の波にも気づけるようになります。
それが、深いレベルでの「感情を味わう」ことにつながっていくのです。
【感情を味わうとは?】思考ではなく身体感覚に意識を向ける
■ 感情を「考える」癖がある私たち
「感情を味わってください」と言われたとき、多くの人が無意識にやってしまうのが、「頭で考えること」です。
「なぜあのとき私はあんなに悲しかったのか」「どうしてイライラしたのか」――そんなふうに、出来事や人間関係を思い返し、原因を探したり、分析したりしてしまいます。
この反応は、社会生活の中で私たちが身につけてきた“思考中心の対応”です。論理的に原因を見つければ、感情を理解し処理できると思い込んでいるのです。
しかし、本当の癒しは、頭ではなく「身体を通して感じること」から始まります。
■ 感情は身体に現れる“エネルギー”
私たちが感じている怒りや悲しみ、不安や寂しさなどの感情は、すべて身体に何らかの反応をもたらしています。
たとえば――
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怒りを感じると、胸が熱くなる、呼吸が荒くなる
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悲しみを感じると、喉が詰まる、目頭が熱くなる
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不安を感じると、みぞおちが重くなる、背中がこわばる
このように、感情とは単なる心の動きではなく、身体感覚として体に刻まれている“エネルギー”なのです。
「感情を味わう」とは、この身体の反応やエネルギーの動きを、ジャッジせずにそのまま感じてみることを指します。
■ 感じる=思考をやめて、身体に意識を向ける
感情を味わうとは、「今、自分の身体にどんな感覚があるのか?」に意識を向けることです。
大切なのは、“どうしてこうなったのか”と考え込まないこと。
代わりに、こんなふうに自分に問いかけてみましょう。
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「胸のあたりに何か詰まった感じがするな」
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「呼吸が浅くなっている気がする」
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「お腹のあたりがモヤモヤする」
このように“感じること”に意識を向けると、次第にエネルギーの流れが回復し、感情が自然と解放されていきます。
言葉にしなくても、涙が出たり、ため息が出たりするのは、まさにそのサインです。
■ 整体で身体が緩むと、感情にも気づきやすくなる
身体の緊張が強いと、感情を感じる感受性も鈍くなります。
硬くこわばった身体では、微細な感覚に気づくことが難しいからです。
しかし、整体の施術を受けて筋肉や神経系がゆるみ、呼吸が深まってくると、身体が“感じられる状態”になっていきます。
すると、それまで押し込めていた感情が自然と浮かび上がってくることがあります。
何もしていないのに涙が出たり、ふとした記憶がよみがえったりするのは、エネルギーが動き始めている証拠です。
このように、感情を味わうことは、心の力だけではなく、「身体のゆるみ」「身体とのつながり」によって可能になるのです。
【整体と感情の関係】身体が緩むと感情に気づけるようになる
■ 身体の緊張と感情の関係
私たちの身体には、過去の経験や感情が無意識に「記憶」されることがあります。
感情的なショックを受けたときや、ストレスが強かったとき、私たちはその感情を処理する前に、身体が反応してしまうことが多いのです。たとえば、強い怒りや不安を感じたときに、身体が硬くなったり、呼吸が浅くなったりすることがあります。
このように、感情が身体の緊張として現れることはよくあります。しかし、私たちはその時に「感じたくない」と思い、無意識に感情を抑え込んでしまうことが多いのです。この抑圧が続くと、身体の緊張が慢性化し、感情がなかなか解放されずに蓄積されてしまうのです。
■ 整体が身体の緊張をほぐす理由
整体の施術は、身体にたまった緊張を解消する大きな助けになります。
整体による筋肉や関節、神経へのアプローチは、単に身体の不調を取り除くだけでなく、私たちが無意識に抱え込んでいる感情のエネルギーにも作用します。
たとえば、肩や首に強い緊張が残っている場合、その部分には「ストレス」や「過去のトラウマ」といった感情的な影響が蓄積されていることがあります。整体師の手によってその緊張が解かれることで、身体は次第にリラックスし、感情も自然と浮かび上がってきます。
この過程で、無意識に抑圧されていた感情が解放されることがよくあります。気づかないうちに感情が動き出し、涙がこぼれることもあれば、心の中にある不安や恐怖が表に出てくることもあります。
■ 身体がゆるむと感情に気づきやすくなる
整体によって身体がリラックスし、緊張が解けると、それまで感じることのできなかった感情に気づくことができます。
たとえば、背中や胸がこわばっていると、感情的なエネルギーの流れも滞りがちです。しかし、身体の状態が整うと、感情は自然と「流れ出す」ことができます。これにより、抑え込んでいた感情を再び感じ、解放することができるのです。
身体の感覚に敏感になることで、怒りや悲しみ、不安といった感情を「感じる」ことができるようになり、それを解放するプロセスが始まります。整体は、感情が身体にたまる前に、その流れを良くし、滞りを解消する役割を果たします。
■ 整体が感情解放をサポートする理由
整体を受けることで、私たちの身体は「今、この瞬間」により意識を向けやすくなります。身体が整い、リラックスすることで、心と身体がひとつとなり、感情のエネルギーも自然と解放されるのです。
また、整体の施術中には、身体がどの部分で力を抜けているか、どこに緊張が残っているかに意識を向けることができます。このような身体感覚を通じて、感情の変化を感じ取ることができるようになるのです。身体が整うことで、感情的にも解放されやすくなる――この相乗効果が整体の素晴らしさです。