現代医療では、急性症状や緊急性のある病態に対して「対症療法」が主に用いられます。
対症療法とは、痛みや発熱、炎症などの“症状”に焦点を当て、それを一時的に和らげるための処置や薬物療法を指します。
一方で、慢性化した不調や繰り返す症状に対しては、“なぜその症状が出ているのか”という原因にアプローチする「根本療法」が重要視されます。
原因が身体の構造的なゆがみ、自律神経の乱れ、あるいは生活習慣にある場合、薬だけでは十分な改善が得られないケースも少なくありません。
整体は、こうした背景に対して身体全体を観察し、自然治癒力を引き出すことで根本から整えていく手法です。
医療行為ではありませんが、補完代替医療の一つとして、慢性的な体調不良や予防ケアに有効なアプローチとして注目されています。
本記事では、「対症療法」と「根本療法」の違いを明らかにしながら、整体による“本質的な改善”の考え方についてご紹介します。
対症療法とは?
■ 症状にフォーカスした西洋医学的アプローチ
現代の医療現場で主に用いられているのが「対症療法(たいしょうりょうほう)」です。
これはその名の通り、出てきた症状そのものにアプローチする療法であり、痛み・腫れ・発熱・倦怠感などの不快な状態を一時的に軽減または抑制することを目的としています。
医療の発展において、対症療法は多くの人々の命や生活の質を守ってきた大切な方法です。たとえば、強い頭痛には鎮痛薬を、発熱には解熱剤を、炎症には抗炎症剤を、アレルギーには抗ヒスタミン薬を用いるといったように、直接的に症状を抑えることで、その時々の苦痛をやわらげ、日常生活を送れるようにする支援となります。
また整体の分野でも、「とりあえず楽にしてあげたい」という気持ちから、マッサージや一時的な筋緊張の緩和を行う場合があります。これも広義には対症療法にあたります。
■ 一時しのぎとしての限界:根本原因にアプローチしないという問題
しかし、対症療法にはひとつ大きな課題があります。それは「症状を起こしている本当の原因には手をつけていない」という点です。
たとえば、肩こりに悩む人が痛み止めを服用し、マッサージを受けたとします。確かにその場では筋肉の張りが軽くなり、症状も和らぐかもしれません。ですが、数日経てばまた元に戻る、という経験はありませんか?
このように、症状だけを一時的に取り除いても、その症状を生み出している根本的な要因——たとえば、長時間の悪い姿勢、呼吸の浅さ、精神的ストレス、骨格の歪み、自律神経の乱れ——が改善されていなければ、同じ問題が繰り返されることになります。
さらに、薬を長期的に使用することで副作用のリスクが高まる、マッサージを繰り返しても根本のゆがみが残っていれば筋肉の緊張が常態化するなど、別の問題を引き起こすこともあります。
■ “芳香剤でごまかすトイレ”の例えにみる対症療法
この状況を、トイレの臭いの問題に例えるととても分かりやすくなります。
例えば、トイレの中に不快な臭いが漂っているとしましょう。そこで芳香剤を置くと、良い香りに包まれ、一時的に臭いの問題は「解決したかのように」感じられます。しかし、芳香剤は臭いの“元”には何の対処もしていません。
もしも臭いの原因が排水管の汚れや見えない場所のカビだったとしたら、それを掃除しない限り、芳香剤の香りが消えた瞬間にまた元の不快な臭いが戻ってくるでしょう。
対症療法もこれと同じです。症状という「臭い」に芳香剤という「薬やマッサージ」を使って一時的にごまかしても、臭いの発生源=“根本原因”を解消しない限り、何度でも同じ問題が戻ってきてしまうのです。
本当に必要なのは、トイレを掃除し、臭いの発生源を断つこと。つまり、症状の奥にある原因に働きかける「根本療法」の視点です。
根本療法とは?
■ 症状の“奥にある原因”を探るアプローチ
根本療法(こんぽんりょうほう)とは、症状の背後にある“本当の原因”にアプローチすることで、再発しにくい、より本質的な改善を目指す療法です。
痛みや不調といった症状は、あくまで「身体からのサイン」です。それを無理に抑え込むのではなく、「なぜその症状が出ているのか?」「身体は何を訴えているのか?」という問いを持つことが、根本療法の出発点です。
この視点を持つことで、「肩こりは筋肉だけの問題ではなく、姿勢やストレス、呼吸の浅さに原因があるかもしれない」「胃の不調は食生活だけでなく、背骨のゆがみや自律神経の乱れが関係しているかもしれない」といった、より多角的な分析とアプローチが可能になります。
■ 整体における根本療法的アプローチ
整体では、体のゆがみ、筋肉の緊張、呼吸の浅さ、自律神経のバランスなど、身体全体の調和を見ながら施術を行います。
表面的な痛みや不調だけでなく、その原因となる「構造(骨格)」「機能(動き)」「感情やストレス(エネルギー)」のバランスを見直すことが、根本療法的な整体の特徴です。
たとえば、腰痛を訴える方に対して、腰そのものにはあまり触れず、骨盤や足首、場合によっては呼吸やストレス状態を整えることで改善が見られることもあります。
これは「原因が必ずしも痛い場所にあるとは限らない」という整体の基本的な考え方に基づいたアプローチです。
また、現代ではスマートフォンやパソコンによる姿勢の崩れ、ストレス過多、睡眠の質の低下など、慢性的な体への負荷が多いため、単に筋肉を揉むだけでは対処しきれないケースがほとんどです。
そのため、整体による根本療法では、症状の背景にある「生活習慣」「姿勢」「呼吸」「意識・思考のクセ」にも働きかけていく必要があります。
■ 芳香剤ではなく、“掃除と換気”をするように
前のセクションでご紹介した「芳香剤とトイレ」の例えを、もう一度根本療法に重ねてみましょう。
芳香剤で臭いをごまかすのが対症療法だとしたら、根本療法はトイレそのものを丁寧に掃除し、窓を開けて空気を入れ替え、配管まで点検するようなものです。
確かに手間はかかりますし、変化を感じるまでに多少の時間も必要かもしれません。しかし、根本から改善されたトイレは芳香剤がなくても臭わず、快適な状態が長続きします。
人の身体も同じです。一時的に楽になる方法に頼るのではなく、自分の体と向き合い、原因に気づき、そこにやさしく働きかけていくことで、再発を防ぎ、回復力が高い身体へと変わっていきます。
整体による本質的改善
■ 身体の“歪み”と“機能不全”を整える
整体の根本的な改善は、まず身体の「歪み」を整えることから始まります。日常生活の中で積み重なる姿勢の乱れ、運動不足、ストレスなどは、知らず知らずのうちに体のバランスを崩し、骨格に歪みを生じさせます。この歪みが神経や血流に影響を与え、痛みや不調を引き起こす原因となります。
整体では、まずはこの「歪み」を正しい位置に戻すことが必要です。背骨や骨盤、肩甲骨、首の位置を整えることで、体全体のバランスが回復し、神経の流れや血液の循環が正常化します。これによって、痛みやコリが軽減し、筋肉の緊張もほぐれていきます。
■ 自律神経の調整
身体の不調や痛みの多くは、ストレスや過労、生活習慣が影響して自律神経のバランスが崩れることが原因となっています。自律神経が乱れると、体温調節、消化、免疫機能、睡眠など、体のさまざまな調整機能がうまく働かなくなります。これが慢性的な疲労感や不調、痛みの原因となることが少なくありません。
整体では、自律神経のバランスを調整するために、リラックスした状態を作りながら施術を行います。特に、筋肉や骨の調整だけでなく、呼吸法を取り入れた施術やリズム感のある手技を用いることで、自律神経を正常に導きます。これにより、ストレスが軽減し、心身のバランスが整えられます。
■ 呼吸や生活習慣にアプローチする
身体の不調は、しばしば不適切な呼吸法や生活習慣が影響しています。現代人の多くは、浅い呼吸や片側に偏った動きが習慣化しており、それが筋肉の緊張や不均衡を引き起こします。呼吸が浅いと、十分な酸素が体内に行き渡らず、エネルギー不足や集中力低下、さらには内臓の機能低下を招くことがあります。
整体では、これらの生活習慣や呼吸法の改善にも取り組みます。施術を通じて呼吸の深さを取り戻し、身体全体をリラックスさせることで、全身の機能が回復しやすくなります。また、日常生活で気をつけるべき姿勢や動作、ストレッチ方法などもアドバイスすることで、再発防止に繋がります。
■ 精神的な側面にも働きかける
痛みや不調の原因は、身体的な問題だけでなく、精神的なストレスや感情の抑圧にも関係していることがあります。特に、慢性的な痛みや体調不良は、心理的な負担が体に現れる一因と考えられています。
整体施術では、単に筋肉や骨格にアプローチするだけでなく、心身のつながりを大切にし、リラックスした状態を作ることで精神的な緊張もほぐしていきます。深いリラクゼーションによって、心の緊張が解放され、身体の回復力が高まることが多くあります。
■ 結果としての“本質的改善”
整体を受けることで、痛みや不調が一時的に緩和されるだけではなく、根本的な原因にアプローチすることで、体全体のバランスが整い、再発しにくい体を作り上げていきます。継続的な施術によって、身体の柔軟性や動きやすさが向上し、ストレスや疲労をため込まずに過ごせるようになります。
また、整体の効果は「痛みが取れる」「コリがほぐれる」だけにとどまらず、内面の変化を促すこともあります。たとえば、心の余裕やリラックス感が増し、よりポジティブな思考を持てるようになったり、精神的な安定感を感じるようになったりすることもあります。これにより、日常生活の質が向上し、全体的な健康状態が改善されるのです。