私たちは、体調がすぐれないとき、「年齢のせいかもしれない」「体質だから仕方がない」と考えがちです。薬や治療を受けても、なかなか改善しない症状に不安や苛立ちを感じることもあるでしょう。しかし、整体の現場で多くの方と向き合う中で、症状が単なる身体の問題だけでなく、心の奥にある無意識の働きが関係している場合があることに気づきます。
その一つが「疾病利得」と呼ばれる心理的な現象です。疾病利得とは、病気や不調を抱えることで、本人が無意識のうちに得ている心のメリットや安心感のことを指します。たとえば、症状があることで「休む理由ができる」「周囲から気遣いや関心を受けられる」といったことです。このような無意識のメリットがあるために、症状がなかなか手放せず、自然治癒の妨げになっているケースが少なくありません。
整体では、身体の歪みや緊張を整えるだけでなく、こうした心と身体のつながりに気づくきっかけを提供することも可能です。症状の裏に隠れた心の働きを理解することで、ただ病気を治すだけでなく、心身ともに軽やかで健やかな状態へと導くことができます。
この記事では、「疾病利得」という少し専門的なテーマを、整体の視点からわかりやすく解説します。自分でも気づかないうちに抱えている心理的なメリットに目を向けることで、自然治癒力がより発揮されやすくなるヒントをお伝えしていきます。
疾病利得とは何か
疾病利得の基本的な意味
疾病利得とは、病気や不調を抱えることで、本人が無意識のうちに得ている心理的・社会的なメリットのことを指します。
たとえば、慢性的な痛みや疲れがあることで、日常生活の負担を減らせたり、周囲の関心やサポートを自然に引き出せたりする場合があります。
このようなメリットは、本人が意識して得ようとしているわけではありません。多くの場合、無意識の心理として働くため、自分でも気づかないまま症状に依存してしまうことがあります。
その結果、整体や治療を受けても「なぜか症状が手放せない」「治療を続けても回復が思うように進まない」と感じることがあるのです。
疾病利得は、決して「病気を作り出しているわけ」ではありません。身体の不調や痛みは現実に存在し、苦痛を伴うものです。しかし、その症状が心の中で何らかの役割を果たしている場合があるという点を理解することが重要です。
一次利得と二次利得
疾病利得は、大きく分けて一次利得と二次利得の二種類に分類されます。
一次利得
一次利得とは、症状そのものが本人の苦痛や負担から逃れる手段となる場合を指します。
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例:腰痛があることで、無理に家事や仕事を頑張らずに済む
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例:頭痛や疲労感があることで、外出や人付き合いを避けられる
一次利得の特徴は、症状が直接「楽になる手段」として機能していることです。本人は意識的に症状を使っているわけではありませんが、身体が無意識に「守ってくれる役割」を果たしているといえます。
二次利得
二次利得とは、症状によって得られる周囲からの関心やサポートを指します。
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例:家族や友人が気を遣ってくれる
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例:職場での責任や負担を軽減できる
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例:「無理をしなくてもいい」という環境を自然に作り出せる
二次利得のポイントは、症状があることで心理的・社会的なメリットを得られる点です。これも無意識の働きであり、本人はメリットを意識していないことがほとんどです。
整体との関わり
整体の現場では、こうした疾病利得が症状の慢性化に影響していることがあります。
たとえば、慢性的な肩こりや腰痛であれば、身体の不調が「休む理由」として働き、無理をせずに過ごすことができる反面、回復のための動きや習慣が阻害されることがあります。
整体では、身体の歪みや緊張を整えることで「症状に依存しない感覚」を体験できるようサポートします。同時に、症状の裏にある心理的なメリットに気づくことで、心身のバランスをより自然に取り戻すことができます。
疾病利得を理解することは、単に症状を軽減するだけでなく、心の働きと身体の状態の両方を整えるための重要な視点です。読者が自分自身の無意識の心理に気づき、自然治癒力を発揮しやすくなるための第一歩として、この考え方は非常に役立ちます。
整体の現場で見られる疾病利得
身体の症状による休息や免除
整体の現場では、慢性的な痛みや疲労感を抱える方が多く来院されます。その中には、症状があることで無理をせずに休める状況を作っている場合があります。
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例:慢性腰痛があることで、家事や仕事の負担を軽くしている
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例:首や肩の痛みで、長時間のデスクワークや外出を避けている
これは一次利得の典型例です。症状が身体的なブレーキとして機能しており、本人は無意識のうちに「休む理由」として症状に依存していることがあります。整体で身体の歪みや緊張を整えると、こうした身体的な制限が少しずつ軽減され、無理なく活動できる感覚を取り戻せます。
周囲の関心やサポートを得るケース
症状によって家族や友人、職場からの気遣いや助けを得ている場合も多く見られます。これは二次利得にあたります。
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例:頭痛や疲労感で家族が気を遣ってくれる
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例:体調不良で職場の責任や負担が軽減される
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例:体調不良を理由に外出や人付き合いを避けられる
このように、症状が心理的・社会的なメリットを生んでいる場合、本人は無意識に症状を手放しにくくなります。整体で身体の調整を行う際に、施術者が優しく声をかけたり、姿勢や呼吸の変化に気づかせることで、「症状に依存せずに過ごせる感覚」に気づくことが可能です。
心と身体のつながりの変化に気づく
整体では、身体の歪みや筋緊張を整えるだけでなく、施術中の感覚や呼吸、姿勢の変化を通じて、症状の裏にある心の働きに気づくサポートができます。
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症状が緩むことで、「無理をしなくていい」という安心感を得ていた自分に気づく
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周囲の関心を得るために症状を抱えていた心理に気づく
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症状がなくても、心身ともに安全で安心な状態を体験できる
こうした気づきは、疾病利得にとらわれず、自然治癒力を発揮しやすい状態を作る大きな一歩となります。整体は単に痛みや不調を取り除く手段ではなく、症状の裏側にある心理的要素を理解し、心身のバランスを整えるサポートとしても機能するのです。
整体でできる疾病利得へのサポート
身体の感覚を通して気づきを促す
整体では、単に痛みや不調を取り除くだけでなく、身体の変化や感覚を通じて症状の裏にある心理的要素に気づくサポートを行うことができます。
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身体の歪みや緊張を整えることで、痛みに依存せずに動ける感覚を体験する
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呼吸や姿勢の変化に意識を向けることで、症状が果たしている心理的役割に気づく
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ゆったりとした施術や優しいタッチにより、心身ともにリラックスして無意識のパターンを観察しやすくなる
このように、整体は身体の感覚を入り口として、疾病利得への気づきを自然に引き出すことができます。
会話やフィードバックを活用する
施術中の会話やフィードバックも重要な役割を果たします。施術者が優しく問いかけたり、変化に気づかせたりすることで、本人が無意識に抱えているメリットに意識を向けるきっかけを作ります。
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「今、肩の緊張が少し楽になった感覚はありますか?」
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「痛みが少し和らぐと、どんなことができそうですか?」
こうした質問は、症状に依存していた心理パターンに気づき、少しずつ手放すサポートになります。
症状を手放す安心感を体験する
疾病利得に気づいた後、整体では症状があってもなくても安全で安心な状態を体験してもらうことができます。
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身体が軽く、自然に動ける感覚を味わう
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症状に頼らなくても、心身が守られている感覚を得る
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自然治癒力が働きやすい状態を体感する
この体験が、疾病利得にとらわれない生活や回復への行動を後押しします。整体は単なる痛みの解消ではなく、心と身体の両方に働きかけ、自然治癒力を引き出すための強力なサポートとなるのです。
まとめ
疾病利得とは、病気や不調によって本人が無意識のうちに得ている心理的・社会的なメリットのことです。症状があることで安心感を得たり、周囲のサポートを受けたりするため、無意識に症状に依存してしまうことがあります。
整体の現場では、こうした疾病利得に気づくことが、回復を促す大切なポイントとなります。身体の歪みや緊張を整える施術を通じて、症状に依存せずに動ける感覚や安心感を体験することで、自然治癒力が働きやすい状態を作ることができます。また、施術中の会話や意識へのフィードバックも、無意識の心理に気づく手助けになります。
症状を「敵」として戦うのではなく、「心身からの気づき」として捉えることで、心も体も軽やかになり、回復への意識が自然に整っていきます。疾病利得に気づき、それを理解することは、整体の効果を最大限に活かすだけでなく、日常生活で心身のバランスを保つためにも重要です。
整体を通じて、自分の症状の裏に隠れた心理的な役割に気づき、心身ともに健やかな状態を目指していきましょう。