執筆者:院長 上川名 修

慢性的に原因不明の不調が続くととても不安になりますよね。
病院に行って検査をしてもはっきりした原因がわからず「自律神経失調症」と診断される人がとても多いです。

検査をして原因がわからなくても原因は存在します。
当院では自律神経の乱れの重要な原因の一つとして栄養の問題を考えています。

実際に多くの方が食事の改善に取り組むことで、様々な不調が改善しています。

自律神経失調症と栄養不足

食生活の乱れが自律神経失調症を引き起こす

一般的に自律神経失調症と言うと「心の病」というイメージがあるかと思います。
実際に身体面だけでなく精神面にも不調が表れることが多い病気です。

病院に行くと症状を抑える薬を処方されたり、精神面へのアプローチとしてはカウンセリングや自律訓練法などがあります。

しかし近年うつ、パニック障害といった「心の病」とされてきた病気も、栄養面の改善で快方に向かうことがわかってきました。

これらの不調は自律神経のバランスが乱れることにより起こります。
その要因として、食生活の乱れが挙げられます。

次に食生活と症状との関係を説明しましょう。

糖質の過剰摂取

現代人の食事は糖質の割合がとても多くなっています。
白米、麺類やパンなどの小麦製品に加えて砂糖を使用したお菓子類、清涼飲料水などをたくさん摂っています。

特に空腹時に精製した糖質が体内に入ってくると、血糖値が急激に上昇します。
人間の体は体温や血圧などを常に安定した状態に保つ働きがあります。
この働きを恒常性(ホメオスタシス)と言います。

そのため、血糖値が急激に上昇すると血糖値を下げるためにインスリンというホルモンが大量に分泌され血糖値が下げられます。
しかし、急激に血糖値が下げられることで低血糖状態になってしまうのです。

すると今度は血糖値を上げるためにアドレナリンなどのホルモンが分泌されます。
アドレナリンは興奮した時やストレスを感じた時に分泌されるホルモンです。

アドレナリンが分泌されると交感神経が刺激され、興奮状態になります。
イライラしたり集中力がなくなったり落ち着かない気分になります。

末梢の血管は収縮し手足は冷えます。
このような状態が繰り返されるとどうなるでしょうか?

血糖値が急激に上昇、下降を繰り返すことになり同時に大量のホルモンが分泌されます。
そのため非常に疲れやすく、精神的にも不安定になります。

だるさ、不安、冷え、めまい、動悸などの症状が表れやすくなります。
このような状態を機能性低血糖症と言いますが、自律神経の不調でよくみられる症状と一致しています。

【参考記事】

健康な人の血糖値は、空腹時で約80~90mg/dl。これが食事を摂ると、1時間後に120mg/dlくらいまで上昇し、再びゆっくりと下がっていきます。

しかし一度に大量の糖質を摂ると、30分ぐらいの短い時間で血糖値が急上昇。すると膵臓はこれを下げようと慌てて大量のインスリンを分泌するため、今度は血糖値が急降下する。これを「血糖値スパイク」と言います。

「血糖値が急降下すると、当然、低血糖に陥ります。70ml/dlを切ると眠気や体のだるさ、イライラ、頭痛、吐き気といった症状が起きるようになり、さらに50ml/dlを切ると、ふるえや動悸、めまい、血圧上昇、脈や呼吸が早くなるといった症状も起きてきます。そして30ml/dlを切ると、意識がもうろうとしたり痙攣を起こしたりするだけでなく、最悪の場合は意識がなくなって昏倒することもあるのです。

参照元:体調不良に繋がる「血糖値スパイク」の深刻|東洋経済オンライン

糖質の過剰摂取による体内の反応

  1. 血糖値が急激に上昇する
  2. インスリンが大量に分泌される
  3. 血糖値が急激に下げられる
  4. 低血糖状態になる
  5. アドレナリンなどのホルモンが分泌される
  6. アドレナリンの作用で血糖値が上昇すると共に交感神経が刺激される
  7. 交感神経が過剰に働き、自律神経のバランスが乱れる
  8. これが続くと自律神経失調状態になる

タンパク質の不足

現代人の食事は糖質の割合が多くなっています。
そして相対的にたんぱく質の割合が少なくなり不足がちになっています。

人間の体を構成する栄養素のうち最も多い割合を占めるものがたんぱく質です。
人体から水分を除いた残りの約70%はたんぱく質で作られています。

筋肉はもちろん、血液中のヘモグロビン、体内の反応に関係する酵素やホルモンの多くがたんぱく質から作られています。

それだけ重要な栄養が不足すると心身の機能がうまく働きにくくなります。
糖質過多と同時にたんぱく質不足も自律神経のバランスを乱す原因になるのです。

【参考記事】

自律神経失調症と診断されている方の中には、鉄不足、ビタミンB群不足、タンパク質不足、低コレステロール血症など、多くの栄養障害を伴っている方が多くいらっしゃいます。このような栄養障害がさまざまな症状の起因となっていることもあるのです。

引用元:オーソモレキュラー栄養医学研究所

神経伝達物質の材料はたんぱく質

健康な状態の脳内はセロトニンやドーパミンなどの幸せや喜びを感じさせる神経伝達物質(ホルモン)で満たされています。
これらの神経伝達物質の材料になるのがたんぱく質です。

たんぱく質の摂取量が不足していると幸せや喜びを感じるホルモンが作られなくなり、うつのような状態になってしまうのです。

糖質制限は危険?

自律神経失調症を改善するためには高たんぱく質と低糖質の食事を心がけることが大切なポイントになります。

しかし、一般の人も医師も「糖質制限は危険である」と思っている人もいます。

理由としては

  • 日本人は米を食べるべきだ
  • 主食を食べないと栄養バランスが崩れてしまう
  • 長期的なエビデンスが得られていないから危険だ

などの意見があります。
中には単なる思い込みに過ぎない場合もあります。

また、普段摂っている糖質だけを一気に減らしてたんぱく質や脂質を増やさないとカロリー不足で具合が悪くなる人もいます。
それは糖質制限をした結果そうなったわけではなく間違ったやり方をしたからだと言えるでしょう。

自律神経失調症は栄養療法で改善出来る!

自律神経失調症は栄養で改善出来る!

自律神経失調症の診断を受けている方の中には食事で改善出来る人がたくさんいます。
逆の言い方をすれば栄養不足により心身に不調を来している場合には、食事の改善をしなくては根本的な改善は難しいとも言えるでしょう。

病院に行って検査をしても原因がわからない不調で悩んでいる方は食事の改善に取り組まれることをお薦めします。

自律神経に必要な栄養素

高たんぱく質&低糖質

自律神経失調症を改善するときに大切なのは、高たんぱく質&低糖質の食事を心がけることです。
理由はこれまでに挙げたとおりです。
さらにその上で必要なビタミン、ミネラルをしっかり補給します。

たんぱく質摂取量の目安としては毎日卵を三個と肉を200グラム食べるようにします。
食欲がなかったり食べられない場合は市販のプロテインを一日数回にわけて摂取します。

糖質メインの食事をしている人は半分以下に減らすと良いでしょう。

ビタミンB群

最近の研究ではビタミンB群そのものに糖化や酸化を防ぐ作用があることがわかってきました。

糖化とは体内のたんぱく質に糖が付着することであり、最終糖化産物(AGE)を作り出します。
AGEが貯まると炎症が起こり老化の原因物質とも呼ばれています。
また体が酸化するとストレスになります。

ビタミンB群の働きはこれまでそれほど重要視されていませんでしたが、最近の研究でビタミンB群そのものに糖化を防ぎ抗酸化作用もあることがわかってきたのです。

【参考情報】

ビタミンB群はこれまでいわゆる抗酸化ビタミンの範疇に分類されていなかったが, 最近一部の研究者がビタミンB群の抗酸化ビタミンの可能性を示唆する研究結果を発表している. そこで著者らはB群に属する6種類のビタミン(B1, B2, B6, B12, 葉酸, ニコチン酸)についてそれぞれのビタミンのリノール酸の過酸化脂質の生成に対する効果を塩化アルミニウム法によって分析した. (中略)以上の結果より, ビタミンB群において過酸化脂質の生成に対してビタミンの種類や実験条件の違いによって抗酸化作用と酸化促進作用の両方の作用を示す可能性があることが示唆された.

引用元:ビタミンB群の過酸化脂質の生成における抗酸化作用と酸化促進作用について|J-STAGE

これまで原因不明とされていた病気や症状とビタミンB群の不足が関係している可能性があります。

ビタミンB群は、ビタミンB1、B2、B3(ナイアシン)、B6、B9(葉酸)、B12がお互いに協力して作用しているので単体よりも併せて摂ったほうが効果的です。

ビタミンC

ストレスがかかると副腎皮質からコルチゾールを出しストレスに対抗します。(内分泌系)
一方、自律神経の働きで副腎髄質からアドレナリンを分泌します。(神経系)

ビタミンCは副腎皮質を副腎髄質の両方を保護する働きをするのです。
抗ストレスビタミンとも言えるでしょう。

免疫力を強化する働きもあります。
ビタミンCは水溶性なので1度にたくさん摂るのではなくこまめに摂取するのがお薦めです。

ビタミンD

近年、ビタミンDと脳の関係が指摘されるようになりました。
冬になるとうつになる「冬季うつ」という病気があります。
北欧などの日照時間が短い地方に多い病気です。

最近は冬季うつの大きな原因としてビタミンDの欠乏が挙げられるようになりました。

【参考情報】

最近ビタミンDが心や神経のバランスを整える脳内物質セロトニンを調節することがわかり、うつなどのメンタル症状に効果的であることがわかってきました。例えば北欧諸国は自殺率が比較的高いとされていますが、日照時間の短さからくるビタミンD合成不足が一因ではないかとされています。日本でも「冬季うつ」といって日照時間の短い冬に抑うつ症状の患者が増加します。

引用元:ビタミンDの効用|医療コラム|新百合ヶ丘総合病院 より

幸せや喜びを感じる脳内神経伝達物質であるセロトニンやドーパミンが作られる過程で鉄分が必要になります。
特に女性は月経や出産により男性に比べて鉄が不足しがちになります。

うつなどの気分障害の総患者数は男性41万8000人に対して女性70万人となっています。
(厚生労働省による平成26年患者調査より)

また気分障害の生涯有病率については男性3.7%に対して女性が9.1%となっています。
(こころの健康についての疫学調査に関する研究 平成18年度)

つまり女性は男性の2~3倍うつなどの気分障害が発症するリスクが高いのです。
その原因としては生理や出産でたんぱく質や鉄を大量に失われるからです。

産後うつで苦しむ女性が多くなっているのも、環境面や精神面のストレス以外に栄養不足が関係している可能性が指摘されています。

脂質

脂質は体内でエネルギー源となる役割があります。
糖質を大量に摂取する食生活をしていると糖質がエネルギーとして使われますが、本来人類は脂質をエネルギー源として長期間生存してきたのです。

脂質をエネルギーとした方が非常に効率がよいのですが、糖質を摂っていると先に糖質がエネルギーとして使われてしまいます。
自動車で例えると燃費が悪い車になっているのです。

糖質を制限すると脂質をエネルギーとして使える体になり疲れにくくなります。

脂質の種類

脂質の種類も重要です。

脂質の摂り方としては、オメガ6系のリノール酸の摂取をなるべく減らし、オメガ3系のα-リノレン酸やEPAやDHAなどの魚油を多く摂ると良いでしょう。

オメガ6系はサラダ油やなたね油などに含まれています。
オメガ3系はえごま油、亜麻仁油、魚油などに含まれています。

脂質については下記リンクでも詳しく解説しています。

その他ミネラル

鉄以外のミネラルとして積極的に摂りたいものは

  • カルシウム
  • マグネシウム
  • 亜鉛

が挙げられます。

カルシウム

カルシウムは精神安定と深く関係するミネラルです。
精神安定と関係するセロトニンやGABAなどの物質の分泌にも関わっています。
しらす干し、桜エビ、イワシの丸干しなどに多く含まれています。

マグネシウム

マグネシウムもカルシウムと一緒に摂りたいミネラルです。
細胞内外のカルシウム濃度を調整してくれるのがマグネシウムなのです。
昆布、納豆、海苔などに豊富に含まれています。

魚介類や海藻類を積極的に摂ると良いでしょう。

亜鉛

亜鉛はストレスで消費されやすいミネラルです。
特に男性はしっかり摂ると良いでしょう。

亜鉛は牡蠣やホヤなどの貝類に豊富です。
豚肉や牛肉にも含まれています。

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