執筆者:院長 上川名 修
寝つきが悪い、夜中に目が覚めてしまう、朝早くに目が覚める、ぐっすり眠った気がしない、など、睡眠に関する悩みを抱えている人はとても多いものです。
病院に行くと「とりあえず睡眠導入剤を出しておきましょう」と薬を処方されます。
睡眠薬や睡眠導入剤と呼ばれている薬は、中枢神経に作用する抗うつ薬や抗不安薬の仲間です。
つまりとても強い薬です。
ですからそれなりのリスクもあります。
しかしそのリスクを一切理解しないまま常用している人も多いです。
このページでは睡眠薬や睡眠導入剤の仕組みや、副作用について解説します。
当院では睡眠薬には頼らずに自然な睡眠が手に入れられるためのお手伝いをしています。
このページの情報があなたのお役に立てば幸いです。
日本は睡眠薬消費大国である
日本国内では世界的に見ても非常に多くの睡眠薬が消費されています。
国際麻薬統制委員会(INCB)のアニュアルレポート2010によると日本のベンゾジアゼピン系睡眠薬の消費量は世界で2位、アジアでは1位となっています。
日本では国民健康保険などの制度により安価に薬を処方してもらえます。
また不眠症の専門医以外でも、内科や整形外科などの病院でも手軽に睡眠薬が処方されています。
不眠症でなくても、かかりつけのお医者さんで「とりあえず眠れるお薬も出しておきましょう」と睡眠薬が処方されるケースも多いようです。
そのような背景事情もあり、日本は世界的な睡眠薬消費大国となっているのです。
睡眠薬による眠りは麻酔薬と同じ!?
手軽に処方される睡眠薬は実は向精神薬ですので中枢神経に作用します。
睡眠薬で眠ることは、全身麻酔で意識が無くなるようなもので自然な睡眠とはかなり異なります。
自然な睡眠は一晩のうちに眠りが浅くなったり深くなったりというリズムを繰り返しています。
ところが睡眠薬による眠りはそのような自然なリズムはなく、薬が効くと一気に意識が無くなりその後徐々に覚醒していきます。
睡眠薬による眠りは、麻薬と同様に呼吸も抑制されてしまうために睡眠中に十分な酸素を取り込むことが出来なくなる可能性があります。
すると血液中は低酸素の状態となり、重大な病気に繋がるリスクもあります。
睡眠薬・睡眠導入剤の作用メカニズム
睡眠薬や睡眠導入剤は向精神薬に分類されます。
向精神薬とは中枢神経に作用します。
抗うつ薬、抗不安薬、精神安定剤などの仲間になります。
作用時間による睡眠薬の分類
睡眠導入剤は睡眠薬の中でも、薬の効果が現われるのも効果が切れるのも早いもの(超短時間作用型)を指しています。
睡眠導入剤も睡眠薬と同じ向精神薬ですので中枢神経に作用する強い薬であることに違いはありません。
睡眠薬は作用時間によって次の4つに分類されます。
- 超短時間作用型(3~4時間)
ハルシオン、アモバン、マイスリーなど - 短時間作用型(5~6時間)
レンドルミン、リスミー、デパス、エバミール、ロラメットなど - 中間作用型(12~24時間)
ベンザリン、ユーロジン、サイレース、ロヒプノールなど - 長時間作用型(24時間以上)
ネルボン、ソメリン、インスミン、ドラール、ダルメートなど
不眠症には寝つきが悪い入眠障害タイプや、途中で目が覚めてしまう中途覚醒タイプなど様々なタイプがありますからその人のタイプや症状によって使用される薬が違ってくるのです。
睡眠導入剤は睡眠薬に比べて軽い薬であるイメージがありますが、記憶障害などの副作用が報告されています。
ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系
現在主流となっている睡眠薬はベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系という種類です。
ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、脳内伝達物質であるGABAの作用を増強し神経の興奮を抑えて睡眠作用をもたらします。
作用する時間によって先ほど挙げた超短時間作用型、短時間作用型、中間作用型、長時間作用型の4つに分類され、不眠症のタイプや症状によって使い分けられています。
以前はバルビツール酸系というタイプが主流でしたが副作用が強いために後に開発されたベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系が主に使われています。
睡眠と関係する脳内伝達物質
睡眠薬、睡眠導入剤は脳内の伝達物質の働きをコントロールして眠りを促します。
精神状態に影響を及ぼす神経伝達物質の代表的なものは以下の通りです。
- GABA(ギャバ)
- セロトニン
- アセチルコリン
- ノルアドレナリン、アドレナリン
- ドーパミン
それぞれについて解説します。
GABA(ギャバ)
興奮した神経を落ち着かせ不安、イライラ感を鎮めます。
心身をリラックス状態にします。
ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬はGABAの働きを強めます。
セロトニン
幸せを感じる神経伝達物質。
快感や覚醒を調整します。
うつやパニック症の人はセロトニンが不足していると言われています。
アセチルコリン
睡眠、目覚め、記憶、学習に深く関与します。
副交感神経の働きと深く関係しています。
脈拍を遅くしたり胃腸の働きを促します。
リラックスしている状態の時はアセチルコリンが作用しています。
副交感神経の伝達物質として知られていますが交感神経の伝達物質としての働きもあります。
ノルアドレナリン・アドレナリン
不安や緊張と関係が深い物質です。
目覚め、集中力にも影響します。
不安なときに動悸がしたり血圧が上がるのはノルアドレナリンの作用です。
ノルアドレナリンは主に脳に作用します。
アドレナリンは副腎でつくられ体内の各臓器に興奮系の信号を送ります。
ドーパミン
快感や高揚感と関係する物質です。
喜びを感じたときに分泌されます。
過剰になると幻覚の症状が起こります。
脳内でベンゾジアゼピン系の睡眠薬が効く仕組み
脳内の神経細胞の中で以下のような仕組みで睡眠薬が作用します。
ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を服用する
↓
GABAの働きが促進する
↓
脳の興奮が抑制される
(ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニンなどの機能が抑制)
↓
心身のリラックスが得られる
↓
睡眠作用がもたらされる
睡眠薬の副作用
それでは睡眠薬の副作用について説明しましょう。
バルビツール酸系の睡眠薬の副作用
以前はGABAに作用する睡眠薬としてバルビツール酸系のタイプが使われていました。
高い催眠効果が得られる一方で、薬無しでは眠れないようになる依存性や薬の効きが悪くなる耐性などの副作用も強くみられる特徴がありました。
過度に使用した場合に呼吸が停止することもあり、現在ではほぼ使われなくなっています。
離脱症状として不眠、悪夢、けいれん、幻覚なども報告されています。
海外ではバルビツール酸系の睡眠薬が使われることはなくなりましたが、日本国内では規制が緩いために未だに処方されているようです。
このバルビツール酸系に変わる副作用が少ないものとして開発されたのがベンゾジアゼピン系の睡眠薬です。
その後非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬も開発されました。
ベンゾジアゼピン系の睡眠薬の副作用
バルビツール酸系の睡眠薬よりも副作用が少ないものとして、ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬が登場しましたが副作用がまったくないわけではありません。
以下に副作用を紹介します。
持ち越し効果
作用時間が長いものを使用したり、短時間作用の場合でも服用量が多かった場合に翌朝以降も薬の作用が継続する副作用があります。
朝から日中の眠気、頭痛、頭重感、ふらつき、脱力感、倦怠感などの症状があります。
耐性・離脱症状
薬の耐性とは身体が薬に慣れてしまい、量を増やさないと効果が得られにくくなることです。
離脱症状とは薬を減らしたり辞めたりすると頭痛、めまい、耳鳴り、不安、焦り、震えなどの症状が現れることです。
ひどい場合には身体がけいれんしたり、幻覚などの意識障害が見られたりします。
筋弛緩作用
身体に力が入らなくなります。
夜中にトイレに起きたときなどにふらつきや転倒の危険もあります。
高齢者は特に注意が必要です。
一過性前方性健忘
薬が効いている時間に一時的に記憶が無くなります。
薬を飲んでから寝るまでの間の出来事を忘れたりします。
特にお酒と一緒に睡眠薬を飲むと起こりやすくなります。
海外のガイドラインではベンゾジアゼピン系の睡眠薬の処方期間は4週間以内です。
(イギリス、フランス、香港、台湾など)
日本でも処方期間は「一回で処方できる睡眠薬は30日分」とされていますが、30日後に診察に行けば簡単にまた処方してもらえますので、実際には長期間常用している人が多いのです。
長期間の常用で耐性が出来たり、辞めようにも離脱症状が酷くて、「薬を飲まないと眠れない、辞めたくても辛くて辞められない」といった状況に陥ってしまう人もいます。
睡眠薬に頼らず自然に眠るために
最初は寝つきが悪かったり、熟睡感がないという症状で睡眠薬や睡眠導入剤を飲み始めて、その後ずるずると薬を辞められなくなり、薬がないと眠れないという状況に陥っている人がいます。
眠れないというのは何かしら生活の中に原因があります。
その原因に目を向けずして薬を飲み続けても根本的に良くなることは難しいと思うのです。
睡眠薬に頼らずに自然な睡眠を取り戻すためには必ず生活習慣の改善が必要です。
当院では不眠症でお悩みの方に、脳と自律神経のバランスを整える整体と生活改善アドバイスを提供しています。
薬なしで自然な眠りを取り戻すお手伝いをしています。
不眠症の整体のページにて、不眠症を改善するための方法も紹介しています。
ぜひ下記リンク先のページも参考にされてみてください。
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