
「また発作が起きたらどうしよう」
そんな不安が頭から離れず、外出や電車、買い物など、日常の行動が怖く感じてしまう——。
パニック障害の方が抱える「予期不安」や「広場恐怖」は、単なる心の問題ではなく、体の緊張や自律神経の乱れとも深く関係しています。
一度パニック発作を経験すると、「また同じようなことが起こるかもしれない」と体が常に緊張状態になります。
呼吸は浅くなり、胸や喉が詰まるように感じ、心拍数も上がる。
このような状態が続くと、脳は“危険”を感じ取り、さらに不安を強めてしまいます。
整体の視点から見ると、こうした悪循環は「体がリラックスできない状態」が根底にあります。
体の歪みや筋肉の緊張を整え、呼吸が自然に深まるように導くことで、心も少しずつ落ち着きを取り戻していきます。
この記事では、
パニック障害の予期不安と広場恐怖の仕組みをわかりやすく解説しながら、
整体がどのように心と体のバランスを整えていくのかをご紹介します。
予期不安とは:また発作が起きるのではないかという恐れ

「またあの発作が起きたら…」という思考が不安を呼ぶ
パニック障害の大きな特徴のひとつが、この「予期不安」です。
一度、強いパニック発作を経験すると、そのときの恐怖や息苦しさが深く体と心に刻まれます。
その記憶がふとよみがえることで、「またあの状態になったらどうしよう」と考えてしまうのです。
この「起きてもいないことを想像して不安になる」こと自体が、体に緊張をもたらします。
たとえば、発作を思い出すだけで胸がドキドキしたり、喉が詰まったように感じたり、息が苦しくなったりすることがあります。
これは、頭で想像しているだけなのに、体は実際に危険が迫っていると錯覚して反応しているのです。
人の体は、実際の出来事と想像上の出来事を区別するのが苦手です。
「また発作が起きたら」と思うだけで、脳は「今まさに危険が迫っている」と判断します。
すると、交感神経が優位になり、心拍数が上がり、呼吸が浅くなり、筋肉がこわばる。
この生理的な反応こそが、予期不安の正体です。
不安のイメージに体が反応する仕組み
予期不安は、心の中でのイメージが引き金となって、体が「防御反応」を起こすことで生まれます。
私たちの脳は、危険を避けるために常に警戒心を働かせる仕組みを持っています。
この仕組みは本来、命を守るために必要なものですが、
パニック発作のように強い恐怖を体験すると、その記憶が強く残り、脳が過敏に反応するようになります。
たとえば、「電車に乗ると苦しくなった」「人混みで倒れそうになった」という記憶があると、
次に似た状況に直面したとき、体が自動的に反応してしまいます。
それが発作ではなくても、同じような緊張が体に走るのです。
つまり、予期不安とは「体が記憶している恐怖の反応」ともいえます。
この状態では、常に交感神経が働いているため、
日常的に呼吸が浅くなり、頭が重い、めまいがする、眠りが浅いなどの症状を伴うことも少なくありません。
体の中がいつも緊張状態にあるため、安心してリラックスすることが難しくなります。
整体的に見た予期不安:体が“安心”を忘れている状態
整体では、この予期不安を「体が安心することを忘れてしまっている状態」と捉えます。
強い不安や恐怖を体験すると、そのときの体の緊張が筋肉や呼吸のパターンとして残ってしまいます。
特に、首・肩・胸・みぞおちのあたりには“防御反応”の緊張が強く出やすく、
この部分が硬くなると、呼吸が浅くなり、体が常に「危険が迫っている」と感じてしまうのです。
整体の施術では、まずこの「安心できない体」をやさしく解きほぐしていきます。
胸郭(胸まわり)や横隔膜の動きを柔らかくし、呼吸が深く入るように導くことで、
神経系が「もう危険ではない」と感じ始めます。
すると、心拍数が落ち着き、手足の血流が戻り、体温が上がるなど、
体の変化とともに心も次第に落ち着きを取り戻していきます。
また、整体的なアプローチでは「体の感覚を取り戻す」ことも大切にします。
予期不安のとき、人は不安な思考に意識が集中し、体の感覚をほとんど感じられなくなっています。
施術を通して、呼吸の心地よさや筋肉のゆるむ感覚を実感できるようになると、
「今ここに安心がある」という感覚が少しずつ戻ってくるのです。
体が落ち着けば、心も落ち着く
予期不安は「心の病気」として語られることが多いですが、
実際には、体の緊張がその不安を強め、維持しているケースがほとんどです。
体が整って呼吸が深まり、血流が改善すると、脳も「安全である」と認識できるようになります。
心が落ち着くのは、心を直接操作したからではなく、
体が落ち着いた結果、心が安心を感じられるようになった ということです。
予期不安は、「治す」よりも「ほどいていく」ものです。
体のこわばりをやさしく解き、呼吸を取り戻していくことで、
少しずつ「もう大丈夫」という感覚が内側から育っていきます。
それが、整体的に見た“予期不安からの回復”の第一歩です。
広場恐怖とは:逃げられない場所への強い恐怖

「もしこの場で発作が起きたら…」という恐れ
広場恐怖とは、「すぐに逃げられない」「助けを求められない」と感じる場所や状況に強い不安を抱く状態です。
たとえば、電車やバス、エレベーター、高速道路、コンサート会場、人混み、レジの列などが典型的な例です。
これらの場面では、「もし発作が起きたら逃げられない」「周囲に迷惑をかけるかもしれない」という思考が働きます。
すると、まだ何も起きていないのに体が緊張し、動悸や息苦しさ、めまいなどの症状が現れます。
この体の反応を「発作の前兆だ」と感じてさらに不安が高まり、
結果的にその場から離れたくなる、もしくは外出自体を避けるようになってしまうのです。
広場恐怖は、実際に“その場所が危険”なのではなく、
「その状況に対して体が過剰に警戒している」ことが原因です。
つまり、心の不安と体の緊張が結びついた“条件反射”のような反応といえます。
広場恐怖の背景にある「体の記憶」
広場恐怖は、予期不安の延長線上にあるともいえます。
過去に発作が起きた状況が、体の中に“危険な場面”として記憶されているのです。
そのため、似たような環境や雰囲気に触れただけで、体が自動的に警戒モードに入ってしまいます。
たとえば、以前に「電車の中で発作が起きた」経験があると、
次に駅に近づいただけで胸がざわつく、ホームに立つだけで息苦しくなるといった反応が出ます。
これは脳が「同じ環境=危険」と誤解し、体に緊張を指令しているからです。
整体的な視点で見ると、この反応には「体の固さ」や「呼吸の浅さ」が深く関わっています。
体が常に緊張していると、少しの刺激でも交感神経が反応しやすくなります。
つまり、体がリラックスを忘れているために、“安全な場所でも危険だと感じてしまう”のです。
体が安全を感じられないと、不安が増す
人は、体が安心しているときには不安を感じにくくなります。
しかし、胸やお腹、喉まわりが硬く緊張していると、呼吸が浅くなり、
酸素が足りなくなって脳が「危険だ」と判断します。
これが広場恐怖のときの強い動悸や息苦しさ、めまいなどの原因となります。
つまり、広場恐怖とは「心の問題」ではなく、
体が安心を感じられない状態であるとも言えるのです。
どんなに頭で「大丈夫」と思っても、体が「危険」と感じていれば不安は消えません。
この“心と体のずれ”を整えていくことが、整体の大きな役割です。
整体的に見た広場恐怖の改善の方向
整体では、体が「安心」を思い出すことを目的に施術を行います。
胸郭(胸まわり)や背中の緊張をゆるめて呼吸を深くし、
みぞおちや腹部のこわばりを解いて、自律神経のバランスを整えていきます。
また、首や肩、骨盤など、全身の緊張が連動している部分も整えることで、
体が“安全な状態”を再び感じられるようになります。
体が安心を取り戻すと、
以前は怖かった場所でも、「あれ?今日は平気だな」と感じられる瞬間が増えていきます。
広場恐怖の改善は、一気に変わるものではありません。
しかし、体の反応が少しずつ穏やかになり、「安心の感覚」を体が覚え直していくと、
行動範囲が広がり、以前より自由に動けるようになっていきます。
それは、「心の治療」ではなく、「体の安心を取り戻すプロセス」なのです。

