
「レントゲンでは異常なしと言われました」
「もう年齢のせいですね、と言われました」
「何年も治療しているのに、良くなったり悪くなったりを繰り返しています」
慢性腰痛でお悩みの方から、こうした言葉をよく耳にします。
確かに、腰痛の原因が明らかな病気である場合もあります。
しかし、検査で大きな異常が見つからないにもかかわらず、痛みだけが続いてしまうケースも少なくありません。
実はそこに関係している可能性があるのが「イエローフラッグ」と呼ばれる心理的・社会的な要因です。
「もう治らないのではないか」
「動いたら悪化するに違いない」
「自分の腰は壊れてしまっている」
こうした“思い込み”や“信念”が、知らず知らずのうちに痛みを強くし、慢性化させてしまうことがあります。
慢性腰痛は、単に筋肉や骨格だけの問題ではありません。
脳や神経、そして私たちの考え方とも深く関わっています。
今回は、慢性腰痛を長引かせる「イエローフラッグ」とは何か、そして間違った信念がどのように痛みに影響するのかについて、わかりやすくお伝えしていきます。
なぜ慢性腰痛は治りにくいのか?

― 慢性腰痛が長引く本当の理由
慢性腰痛でお悩みの方の多くが、次のようにおっしゃいます。
「何年も腰痛が続いている」
「その場では楽になるけれど、またすぐ戻る」
「病院で検査をしても“異常なし”と言われた」
慢性腰痛は、日本人に非常に多い症状のひとつです。しかし、画像検査で明らかな異常が見つからないケースも少なくありません。それにもかかわらず痛みが続く――ここに慢性腰痛の難しさがあります。
一般的に、ケガや炎症など組織の損傷が原因であれば、身体には自然治癒力が備わっていますので、時間とともに回復していきます。ところが慢性腰痛では、組織の回復と痛みの持続が一致しない状態が起こります。
では、なぜ慢性腰痛は治りにくくなってしまうのでしょうか。
慢性腰痛と「痛みの慢性化」
慢性腰痛とは、一般的に3か月以上続く腰の痛みを指します。
急性腰痛(いわゆるぎっくり腰など)は、炎症や筋肉の損傷が主な原因です。しかし慢性腰痛では、必ずしも明確な損傷が残っているとは限りません。
ここで重要なのが、「痛みはどこで感じているのか」という視点です。
痛みは腰そのものが感じているのではなく、最終的には脳が感じています。
痛みの刺激が長期間続くと、脳や神経が過敏になり、わずかな刺激でも強い痛みとして認識するようになります。これを「神経の過敏化」や「痛みの慢性化」と呼びます。
つまり、
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最初は腰に負担がかかる出来事があった
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組織自体はある程度回復している
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しかし脳が“まだ危険だ”と判断し続けている
この状態が続くと、慢性腰痛として痛みが固定化してしまうのです。
慢性腰痛は「身体だけ」の問題ではない
慢性腰痛が長引く背景には、筋肉や骨格だけでは説明できない要素が関わっています。
例えば、
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「動くと悪化するのではないか」という不安
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「ヘルニアだから一生治らない」という思い込み
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「安静にしていないと危険だ」という強い警戒心
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「自分の腰は壊れてしまっている」という信念
このような考えがあると、人は無意識のうちに身体を固め、動きを制限し、痛みをより強く感じやすくなります。
不安や恐怖は自律神経を緊張状態にし、筋肉のこわばりを強め、血流を低下させます。その結果、腰周辺の緊張が抜けにくくなり、慢性腰痛が続きやすくなるのです。
さらに、「痛み=危険」という強い認識があると、脳は防御反応を強めます。すると、わずかな違和感でも「痛み」として強く感じてしまうようになります。
このように、慢性腰痛は単なる構造的な問題ではなく、脳・神経・心理状態が深く関わる複合的な現象なのです。
慢性腰痛を長引かせる“イエローフラッグ”
こうした心理的・社会的な要因は、専門的には「イエローフラッグ」と呼ばれています。
イエローフラッグとは、重篤な病気のサイン(レッドフラッグ)とは異なり、慢性腰痛を長期化させる可能性のある心理的要因や思考パターンを指します。
・強い不安
・過度な恐怖
・悲観的な思考
・誤った情報による思い込み
これらが積み重なると、慢性腰痛はより固定化しやすくなります。
イエローフラッグとは何か?

― 慢性腰痛を長引かせる心理社会的要因
慢性腰痛を語るうえで欠かせないのが「イエローフラッグ」という概念です。
医療の現場では、腰痛を評価する際にいくつかの“フラッグ”が用いられます。
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レッドフラッグ:重篤な疾患(がん・感染症・骨折など)の可能性を示す危険サイン
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イエローフラッグ:痛みを慢性化させる心理的・社会的要因
レッドフラッグは命に関わる可能性があるため、まず除外すべき重要なサインです。一方で、検査で大きな異常が見つからない慢性腰痛の場合、問題となるのがイエローフラッグです。
イエローフラッグとは、痛みそのものよりも“痛みに対する考え方や感じ方”が回復を妨げる状態を指します。
慢性腰痛とイエローフラッグの関係
慢性腰痛が長引く背景には、身体の問題だけでなく、次のような心理的要因が関わることがあります。
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「腰は壊れてしまっている」という思い込み
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「動いたら悪化するに違いない」という恐怖
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「もう一生治らないかもしれない」という不安
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「痛みがある=危険」という強い認識
これらは一見、自然な反応のように思えます。痛みがあれば不安になるのは当然です。
しかし、この不安や恐怖が強くなると、脳は常に「危険モード」になります。すると神経は過敏になり、わずかな刺激でも痛みとして感じやすくなります。
つまり、イエローフラッグがあると、慢性腰痛は“守りすぎる身体”になってしまうのです。
なぜ“信念”がここまで影響するのか
慢性腰痛において重要なのは、**身体の状態そのものよりも“どう解釈しているか”**です。
同じ状態でも、
「少し張っているだけだ」
と思う人と、
「また悪化した、危険だ」
と思う人では、脳の反応がまったく異なります。
後者では、防御反応が強まり、筋肉が固まり、自律神経が緊張し、痛みの感受性が高まります。
このように、イエローフラッグは単なる“気の持ちよう”ではありません。脳と神経の働きを通して、実際に痛みを強くしてしまう要因なのです。
慢性腰痛の人に多いイエローフラッグの具体例

― あなたの中にも“黄色信号”はありませんか?
慢性腰痛を長引かせる「イエローフラッグ」は、特別なものではありません。
多くの場合、真面目で責任感の強い方ほど、無意識のうちに抱えていることがあります。
ここでは、慢性腰痛の方によく見られる代表的なイエローフラッグをご紹介します。
もし当てはまるものがあれば、それは改善への第一歩になります。
1.「腰は壊れている」という思い込み
「椎間板がつぶれていると言われた」
「骨が変形しているから治らない」
画像所見の説明を強く受け止めてしまい、
「自分の腰はもう元に戻らない」と感じてしまうケースです。
しかし実際には、画像上の変化と痛みの強さは必ずしも一致しません。
無症状の方でも、同じような変化が見つかることは珍しくありません。
「壊れている」という認識が強いほど、脳は防御反応を強め、慢性腰痛が続きやすくなります。
2.「動いたら悪化する」という恐怖
慢性腰痛があると、動くことが怖くなります。
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前かがみが怖い
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重いものを持つのが怖い
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長時間歩くのが不安
その結果、動きを避けるようになります。
しかし、必要以上に動かさないことで筋力や柔軟性が低下し、かえって腰に負担がかかりやすくなります。
慢性腰痛においては、“安全に動く経験”を積むことが回復につながる場合が多いのです。
3.「もう一生治らない」という悲観的な思考
慢性腰痛が長く続くと、
「何をやってもダメだった」
「年齢だから仕方ない」
「このまま付き合うしかない」
といった考えが浮かびやすくなります。
こうした悲観的な思考は、脳の警戒レベルを高め、痛みを増幅させる要因になります。
希望が持てない状態は、自律神経のバランスにも影響し、回復力を低下させます。
4.完璧主義・責任感の強さ
慢性腰痛の方の中には、
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仕事を休めない
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人に迷惑をかけたくない
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常に頑張り続けている
という傾向がある方も少なくありません。
身体のサインを無視して無理を続けると、緊張状態が抜けにくくなります。
また、「痛みがあってはいけない」という思考が、かえって痛みに意識を集中させてしまいます。
5.情報への過剰反応
インターネットやSNSで慢性腰痛の情報を調べ続けるうちに、不安が増幅してしまうこともあります。
「この症状は重症かもしれない」
「手術しかないのでは」
情報は大切ですが、恐怖を強める情報ばかりを取り入れると、イエローフラッグが強化されてしまいます。
イエローフラッグを外すために大切なこと

― 慢性腰痛は「安心」の積み重ねで変わっていく
慢性腰痛を長引かせるイエローフラッグ。
では、それはどのようにすれば和らげることができるのでしょうか。
大切なのは、無理にポジティブになることではありません。
必要なのは、正しい理解と小さな安心体験の積み重ねです。
1.「痛み=損傷」とは限らないと知る
慢性腰痛では、痛みの強さと組織の状態が一致しないことがよくあります。
痛みがあるからといって、必ずしも「壊れている」わけではありません。
この理解はとても重要です。
「腰は壊れている」という信念が弱まるだけでも、脳の警戒レベルは少し下がります。
それだけで神経の過敏さが和らぐこともあります。
まずは、身体には回復する力があるという前提を持つことが第一歩です。
2.安全な範囲で“動いてみる”
慢性腰痛の改善において、「適度に動くこと」は非常に重要です。
もちろん無理は禁物ですが、
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少しだけ前屈してみる
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短時間歩いてみる
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痛みが出ても落ち着いて様子を見る
こうした経験を重ねることで、脳は学習します。
「動いても大丈夫なんだ」
「必ず悪化するわけではない」
この“再学習”こそが、慢性腰痛の改善に大きく関わります。
3.不安をそのままにしない
慢性腰痛において、不安は最大のイエローフラッグです。
不安を無理に打ち消す必要はありませんが、
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正しい知識を得る
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専門家に相談する
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身体の変化を客観的に見る
ことで、不安は少しずつ整理されます。
「わからない」ことが一番の恐怖です。
理解が深まると、脳の警戒は自然と下がっていきます。
4.身体の“心地よさ”を感じる時間をつくる
慢性腰痛があると、どうしても「痛み」に意識が集中します。
しかし、痛みだけが身体の感覚ではありません。
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温かさ
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軽さ
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呼吸の深さ
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力が抜ける感覚
こうした心地よい感覚に意識を向ける時間を持つことが、神経の過敏さを落ち着かせます。
痛みを消そうとするのではなく、安心できる感覚を増やしていくことが大切です。
慢性腰痛は“考え方”で変わり始める
イエローフラッグは、長い時間をかけて形成されてきた思考のクセです。
だからこそ、焦らず、少しずつ修正していくことが重要です。
慢性腰痛は、
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身体
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脳
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神経
-
思考
これらが影響し合うことで続いています。
だからこそ、身体へのアプローチと同時に、
「痛みに対する見方」を変えていくことが回復を後押しします。

