執筆者:院長 上川名 修
うつの原因の一つは脳内のセロトニン不足説が有力と言われてきました。
セロトニンが不足することで精神的な落ち込みや無気力が起こるという考え方です。
※セロトニンは別名「幸せホルモン」とも呼ばれ感情や精神面と関連が深い脳内伝達物質の一種です。
気分や感情をコントロールして精神の安定を保つ作用があります。
しかし、近年新たに「うつの原因は脳内の慢性炎症である」との説が唱えられるようになってきました。
このページではセロトニン仮説の問題点と共に、脳内炎症説について紹介いたします。
うつの原因は脳の慢性炎症だった
うつの原因は脳内の慢性炎症である、という説を初めて知ったのは「脳の炎症を防げばうつは治せる」という書籍を読んだことがきっかけでした。
タイトルを見た時には「???」と思ったのですが、内容を読んでみたところとても理にかなっていると感じました。
私は健康関連の本を読むときにいくつかの点において気をつけていることがあります。
それは、
- 自然治癒力を高める内容であるか
- 心と体のつながりを考慮して書かれているか
- 著者の健康観が理にかなっているか
ということです。
例えば「○○病の原因は■■だから薬剤を投与して■■を殺してしまえばよい。」
といった類の内容にはあまり惹かれないのです。
医療としてはそれが正しいのでしょうが、何かしっくりこないものが残るのです。
人間が病気になったり治ったりする仕組みはそんなに単純じゃないのではないか、という疑問が残るのです。
薬や手術が必要なケースももちろんありますが、それはお医者さんの仕事です。
私のような民間療法に携わる者は新しい情報に触れる時に「自然治癒力を高める方法であるかどうか」という基準をいつも大切にしています。
また、体の症状は体だけを見る、心の症状は心だけを見る、という分け方は出来ないとも思うのです。
心と体は常に密接に結びついていてお互いに影響を及ぼしあっているというのが当院の考え方です。
心と体の繋がりについて考慮して書かれていたり、その両面にアプローチする必要性が説かれていることがこれからは当たり前になってくると思うのです。
その著者の健康観や自然観は行間から伝わってきます。
生命に対して謙虚に向き合っている方はそのような雰囲気が文章から伝わってくるものです。
セロトニン仮説について
ところでうつは脳内の神経伝達物質であるセロトニンの不足が原因であるという説を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか?
有名なうつ病治療薬としてSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)があります。
脳内のセロトニンが細胞に取り込まれるのを阻害することでセロトニンを増やす作用があります。
副作用も少なく現在ではうつやパニック障害などの治療薬として使用されています。
セロトニンが不足すると感情が不安定になったり、ちょっとした出来事に対しても不安感や恐怖感が強く出たりします。
「うつはセロトニンが欠乏していることが原因である。
だからSSRIを服用すればうつが治る。」というわけです。
しかし、SSRIを服用しても効果が出にくいケースもあるのです。
SSRIを飲むと脳内のセロトニン量は増加します。
しかし、セロトニンの量が増えた人が全員うつ症状が改善するかというとそうでもないこともわかっています。
特に新型うつともいわれる非定型うつ病においてはSSRIを飲んでも効果が出にくいと言われています。
つまりセロトニンの不足だけではうつ発症の原因は説明できないのです。
なのになぜ、「うつ=セロトニン不足説」(セロトニン仮説)がここまで広まったかというと理由があります。
それは製薬会社がSSRIの販売促進のためにセロトニン仮説を広めたためと言われています。
元々はセロトニン仮説は医学的な仮説の一つだったのですが、製薬会社がその重要性を強調して発信したために広く普及したというわけです。
うつの原因は脳内の慢性炎症だった
うつの原因はセロトニンなどの脳内神経伝達物質の減少であると言われてきました。
しかし近年うつの真の原因として精神医療の最先端で注目されている説があります。
それが、
「うつは脳の慢性炎症によっておこる」
というものです。
通常炎症と言えば急性炎症のことを言います。
ウイルスや細菌などの外敵に対して免疫細胞や活性酸素が攻撃を仕掛けます。
いわゆる「戦闘期」です。
その後戦いが終わっていたんだ身体を修復するための「回復期」があります。
急性炎症の場合はこの2つのプロセスを経て炎症反応も終わります。
一方、いつのまにか始まり終わることもなくだらだらと続く炎症があります。
これを慢性炎症と言います。
慢性炎症は微弱な反応ですが長く続くと確実に脳や体を疲弊させます。
うつは脳の慢性炎症により引き起こされるというのが最新の説なのです。
また脳の慢性炎症は心理的なストレスによって起こりやすいことがわかっています。
【関連記事】
神戸大学医学研究科の古屋敷智之教授、北岡志保助教らの研究グループは、京都大学医学研究科の成宮周特任教授らとの共同研究により、ストレスによる抑うつの誘導に自然免疫系による脳内炎症が重要であることを発見しました。
本研究成果は、うつ病の病態に脳内炎症による神経細胞の機能変化が重要であることを示唆しており、自然免疫分子を標的とした新たな抗うつ薬の開発につながる可能性を提示しています。
うつの原因を取りのぞく方法
脳の慢性炎症を引き起こす原因は心理的なストレスに加えて、肥満も関係しています。
肥満はうつの発症リスクを高めることもわかっているのです。
肥満とは脂肪細胞が肥大することですが、脂肪細胞が炎症伝令物質を生産してしまうのです。
炎症伝令物質とは炎症を起こす指令を脳へと届ける物質のことを言います。
痩せていてもうつの人はたくさんいるのではないか?という意見もあるかと思います。
実は外見はやせていても内臓の周囲に脂肪がたまっている場合があります。
このような肥満を内臓脂肪型肥満と言います。
慢性炎症を起こしやすいのがこの内臓脂肪型肥満です。
そして内臓脂肪型肥満の人はうつを発症しやすいということがアメリカの研究で明らかにされています。
つまり、うつの原因である脳の慢性炎症を抑えるためには、
- 慢性炎症の原因となる心理的なストレスを減らすこと
- 脳や体で起きている慢性炎症を抑えること
この二つの取り組みがとても重要なのです。
生活の改善の取り組み
うつ病を根本的に改善しようとするならば単に薬物療法だけを行うよりも積極的に生活習慣の改善に取り組む必要があるというのが当院の考えです。
心と体の両面から取り組むことがとても大切です。
慢性炎症の原因となる心理的なストレスを減らすためには心のケアが必要です。
そして脳や体で起きている慢性炎症を抑えるためには、食生活の改善や運動による体質改善が課題となります。
- 心のケア
- 食事の改善
- 運動の習慣
それぞれ当院でも大切に考えている要素です。
やはり根本的な改善を目指すならばこれらの取り組みが大切になるのです。
炎症を抑えるためには生活を変えていくことが大切になります。
何年も薬を飲み続けても完治しない人もたくさんいるようですが、生活改善に本気で取り組むことでうつが改善する人も増えるのではないかと思います。
1.心のケア
心のケアには様々な方法があります。
- 呼吸法
- 瞑想法
- 自律訓練法
- マインドフルネス
- マッサージ
- アロマセラピー
- 森林浴
等々。他にもいろいろな方法がありますが、あなた自身がリラックスできたり心が癒されると感じるものがよいでしょう。
2.食事の改善
抗炎症作用をもつ良質な油を積極的に摂取します。
EPA,DHAなど青魚に含まれるωー3不飽和脂肪酸がお勧めです。
毎日青魚を食べるのが大変な場合にはサプリメントの利用も効果的です。
またビタミンB群の摂取も効果的です。
抗うつ薬の効果を高める、情報伝達ネットワークの働きをサポートする、炎症の抑制などの効果があります。
緑の野菜、豆類、魚、肉などに含まれています。
3.運動の習慣
脳の慢性炎症の原因の一つに肥満が挙げられますので、運動により肥満を解消することがうつ改善に繋がります。
脂肪細胞が減ると体内の炎症伝達物質も減少するのです。
辛くない範囲で運動を毎日の習慣にすると効果的です。
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