慢性的な頭痛、めまい、倦怠感、耳鳴り、集中力の低下…。
病院で検査をしても「異常なし」と言われ、原因不明のまま苦しんでいる方の中には、脳脊髄液減少症(のうせきずいえきげんしょうしょう)という聞き慣れない病態が隠れていることがあります。
脳脊髄液減少症とは、脳と脊髄を保護する「脳脊髄液」が漏れ出し、体のさまざまな機能に影響を及ぼす状態です。診断が難しく、理解も進んでいないために、適切なケアを受けられずに長年悩まれている方も少なくありません。
本記事では、脳脊髄液減少症の基本的な解説に加え、整体の視点からできるサポート法や、実際に整体を通して症状が改善された事例についてご紹介いたします。
「もしかして…」と感じる方や、改善の糸口を探している方にとって、少しでも参考になれば幸いです。
脳脊髄液減少症とは
■ 脳脊髄液とは何か?
「脳脊髄液(のうせきずいえき)」は、脳と脊髄を包み込み、体内を循環している無色透明の液体で、中枢神経系を守る役割を担っています。脳脊髄液は、頭蓋骨の中にある「脳室」で作られ、脳の周囲や脊髄の中を循環したのち、再吸収されるというサイクルを繰り返しています。
この液体は以下のような重要な機能を果たしています:
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衝撃吸収作用:外部からの物理的な衝撃を和らげ、脳や脊髄を守る
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脳圧の調整:頭の中の圧力(脳圧)を一定に保つ
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老廃物の排出と栄養供給:脳細胞から出た老廃物を運び出し、新しい栄養を届ける
このように、脳脊髄液は私たちが健やかに生きるために欠かせない、体内の精密な循環システムのひとつです。
■ 脳脊髄液減少症とはどんな病気?
脳脊髄液減少症とは、何らかの原因によって脳脊髄液が漏れ出し、頭の中の圧力が低下することで、さまざまな全身症状が現れる疾患です。正式には「低髄液圧症候群」や「脳脊髄液漏出症」と呼ばれることもあります。
この病気の特徴は、「立っていると悪化し、横になると楽になる」という特有の起立性頭痛をはじめ、日常生活に支障をきたすような重度の不調が、複合的かつ慢性的に続くことです。
■ 脳脊髄液減少症の原因と発症のきっかけ
外傷や事故によるもの
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交通事故(特に追突事故)
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転倒や尻もち
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激しいスポーツでの衝撃
これらの物理的な外力により、脳脊髄液を包んでいる「硬膜」と呼ばれる膜に小さな裂け目ができることで、液体が漏れ出すことがあります。
自然に発症するケース
中には、はっきりした原因がないのに突然発症する方もいます。体質や遺伝的要素、生活習慣、ストレスなどが複雑に絡み合っていると考えられます。特に女性に多い傾向があるとも言われています。
医原性(医療処置が原因)
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脊髄麻酔
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腰椎穿刺(ルンバール)
こうした医療行為がきっかけで発症するケースも報告されています。
■ 脳脊髄液減少症の症状とは?
脳脊髄液減少症は、「これがあれば確実にそうだ」と言える明確な症状が少なく、多彩な不調が組み合わさって現れるのが特徴です。以下は代表的な症状です。
頭痛(特に起立性頭痛)
最も多く報告されているのが、立つと頭痛が強くなり、横になると和らぐという「起立性頭痛」です。これは、脳脊髄液が減ることで脳が重力に引っ張られ、脳の血管や神経が刺激されることによって起こると考えられています。
めまい・ふらつき
平衡感覚の異常を感じる方も多く、常に船に乗っているような不快感を訴える方もいます。
耳鳴り・耳閉感・聴覚過敏
耳が詰まるような感覚やキーンという音が続くこともあり、聴力検査では異常が出ないことも多いため、「気のせい」と片づけられてしまうこともあります。
その他の症状(多岐にわたる)
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吐き気・胃の不調・食欲不振
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集中力低下・記憶力の低下
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首や背中の強いこり
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光過敏・視界のぼやけ
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不眠・情緒不安定
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慢性疲労・うつ状態のような症状
これらの症状は、いわゆる自律神経失調症や心因性の体調不良と似ているため、誤診されやすく、長期間原因がわからず苦しむ方も少なくありません。
■ 医療機関での診断と治療法
検査方法
脳脊髄液減少症の診断には、以下のような画像検査が使われます:
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MRI(磁気共鳴画像):液の漏れや脳の下垂の有無を確認
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CTミエログラフィー:造影剤を注入し、髄液の流れを確認
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RIシンチグラフィー:放射性同位体を用いた髄液の循環確認
ただし、検査ではっきりと漏れが確認されないケースも多く、臨床症状や病歴を総合して判断することもあります。
治療法
代表的な治療法は以下の通りです:
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保存療法(安静・水分摂取・カフェインの摂取など)
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ブラッドパッチ療法(自身の血液を硬膜外に注入し、漏れた部分をふさぐ)
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薬物療法(痛み止めや抗うつ剤などの対症療法)
保存療法で改善が見られない場合、ブラッドパッチ療法が有効とされています。ただし、再発の可能性もあるため、根気強い経過観察と体調管理が必要です。
■ 見落とされやすい理由
脳脊髄液減少症は、症状が多様で一見バラバラなため、医療機関でも気づかれにくい疾患です。「異常なし」「自律神経の乱れ」と診断され、精神的な問題と誤解されることもあります。
また、「MRIで異常がない=正常」という先入観が、患者さん自身や医師の判断を惑わせることもあります。その結果、原因不明の不調として長年放置されてしまうことも珍しくありません。
このような背景を踏まえると、症状が長引いている方や、病院で明確な診断がつかない方こそ、脳脊髄液減少症という視点で改めて見直すことが重要です。
脳脊髄液減少症に対する整体的アプローチ
■ 整体は「根本治療」ではないが、重要な役割を担う
まず最初にお伝えしたいのは、整体が脳脊髄液減少症を直接「治す」ものではないという点です。
脳脊髄液減少症の治療は、医療機関による診断と処置(特にブラッドパッチ療法など)が基本となります。
しかしその一方で、整体は回復を助ける体づくりや、自然治癒力のサポートという点で大きな役割を果たします。実際に、整体を受けることで全身の緊張が緩み、症状の緩和につながったという声も多く聞かれます。
■ 整体で期待できる効果
1. 自律神経のバランスを整える
脳脊髄液減少症では、頭痛や倦怠感などの症状に加えて、自律神経の乱れによる不調が併発していることがよくあります。
整体では、背骨や骨盤、頭蓋などの緊張を丁寧にゆるめ、交感神経と副交感神経のバランスを整えることで、自律神経の働きを正常化へ導きます。
これにより、不眠・めまい・息苦しさ・内臓不調などの二次的症状の緩和が期待できます。
2. 体液循環(血液・リンパ・脳脊髄液)を促進
身体の構造が歪んでいたり筋肉が緊張していると、血液やリンパの流れが滞ります。同様に、脳脊髄液の循環も間接的に悪影響を受ける可能性があります。
整体では、筋膜リリースや脊柱調整を通して、全身の循環を改善し、体液の流れがスムーズになる環境を整えます。これにより、体内の自己修復力(自然治癒力)が高まる土台を作ることができます。
3. 頭蓋骨・背骨・骨盤のバランス調整
脳脊髄液は頭蓋骨内で生成され、背骨を通って循環します。そのため、頭部や脊柱の構造的な歪みは、脳脊髄液の流れにも影響を与えると考えられています。
整体では、頭蓋仙骨療法や軽いタッチのクラニオ施術などを通して、骨格の微細なズレや緊張を調整し、脳脊髄液の循環が本来のリズムを取り戻すよう働きかけます。
これにより、頭の重さや圧迫感の軽減、目や耳まわりの不快感の緩和につながるケースもあります。
4. 呼吸の質を高め、回復力を底上げ
脳脊髄液減少症の方は、痛みや不安、緊張などにより呼吸が浅くなりがちです。
整体では、肋骨や横隔膜まわりの緊張を緩めることで呼吸が深まり、副交感神経が優位になりやすく、リラックスしやすい状態が整います。
深い呼吸は、体内の酸素供給や代謝機能の向上につながり、全身の回復スピードを高める効果が期待できます。
■ 施術の注意点:過剰な刺激は逆効果に
脳脊髄液減少症の方に対しては、強い矯正や急激な施術は避けるべきです。症状が不安定な時期には、体が繊細な反応を起こしやすいため、施術には特別な注意が必要です。
当院では、必要以上の刺激を与えることなく、やさしい手技で全身の緊張を緩める整体を行っております。
体と心が「安心」できる状態を保ちながら、少しずつ自己回復力を高めていくことを大切にしています。
■ 脳脊髄液減少症と整体の併用について
整体はあくまで医療の代替ではなく、「補完療法」という立場にあります。
医師による診断・治療を受けながら、身体全体のバランスを整えて自然な回復力を高めていく方法として整体を利用することが理想的です。
当院にも、医療機関と併用しながら整体を受け、日常生活が楽になったという方がいらっしゃいます。
次章では、実際に整体によって症状が軽減された改善事例をご紹介いたします。
■ よくある質問(Q&A)
〜脳脊髄液減少症と整体に関するご相談〜
Q1. 脳脊髄液減少症に整体は効果がありますか?
A. 整体は、脳脊髄液減少症の根本的な治療(例:ブラッドパッチ療法)を代行するものではありませんが、自然治癒力を高めるための体づくりや、自律神経の安定、体液循環の改善を通じて、症状の緩和や回復をサポートすることが可能です。
特に「疲労感が強い」「起立時の不調が続く」「頭の重さや集中力の低下がつらい」などの方に、体が回復しやすい環境を整える補助的な手段として選ばれています。
Q2. どんな整体が脳脊髄液減少症に向いていますか?
A. 脳脊髄液減少症に対しては、ソフトなアプローチを用いた整体がおすすめです。
例えば、クラニオセイクラル(頭蓋仙骨療法)や、軽い触圧で神経系に働きかける施術、操体法など、体に負担をかけずに緊張をゆるめていく手技が向いています。
当院でも、刺激を最小限にとどめながら、背骨や骨盤、頭蓋のバランスを整える施術を行っております。
Q3. 脳脊髄液減少症の人が整体を受ける際の注意点は?
A. 以下の点に注意して整体を受けることをおすすめします:
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症状が急性期で強く出ているときはまず医療機関を受診する
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強い矯正やバキバキ鳴らす施術は避けた方が良い
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信頼できる整体院や施術者を選ぶ(脳脊髄液減少症に理解のある院)
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施術後に疲労感が出ることもあるため、施術当日は無理をしない
無理のないペースで、身体の声を大切にしながら進めることが回復への近道です。
Q4. 整体はどれくらいの頻度で受けるといいですか?
A. 個人差はありますが、症状が安定するまでは週1回程度のペースで受ける方が多いです。
体調が整ってきたら、隔週〜月1回のメンテナンスに移行するのが一般的です。
状態を見ながら、施術者と相談して無理のないペースを見つけましょう。
Q5. 施術を受けるとすぐに症状がよくなりますか?
A. 脳脊髄液減少症は、身体の回復に時間がかかることの多い慢性疾患です。
整体を受けた直後に楽になる方もいますが、基本的には少しずつ身体の状態を整えていくプロセスが必要です。
日常の姿勢や呼吸、生活習慣の見直しも合わせて行うことで、回復がスムーズになります。
Q6. 脳脊髄液減少症と診断されていなくても、整体を受ける意味はありますか?
A. はい、あります。
脳脊髄液減少症は診断がつきにくい病気でもあり、「原因不明の体調不良」が続く方に共通点が見られることもあります。
検査で異常がないと言われたが、慢性的な頭痛・疲労・耳鳴り・めまいなどに悩まされている方は、一度整体で体のバランスを整えてみる価値があります。
Q7. 回復にはどれくらいの期間がかかりますか?
A. これも個人差がありますが、早い方で数週間〜数ヶ月、慢性化している場合は半年〜1年以上かけて少しずつ改善していくこともあります。
重要なのは、焦らずに体が治ろうとする流れを支えることです。整体はその流れを助ける役割を担います。
Q8. 整体と病院の治療を併用しても大丈夫ですか?
A. はい、基本的には併用可能です。
医師による診断・治療を受けながら、整体で体の回復力を高めるというのは、非常に理想的な組み合わせです。
当院でも、医師の治療と並行して通われる方が多くいらっしゃいます。
脳脊髄液減少症の整体での改善事例の紹介
■ 長引く不調と3度の手術、それでも改善しなかった体調
今回ご紹介するのは、15歳・高校1年生の男の子です。
彼が体調を崩し始めたのは中学2年生の頃。最初は原因不明の強い頭痛に悩まされるようになり、次第に、
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朝起きられない
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めまい
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耳の奥の痛み
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立ちくらみ
といった多彩な症状が日常生活に支障をきたすほどに現れるようになっていきました。
病院で検査を受けた結果、診断されたのは「脳脊髄液減少症」。その後、ブラッドパッチを含む3回の手術を受け、幸いにも現在は「脳脊髄液の漏れは見られない状態」まで回復しています。
しかし、医療的な処置が終わっても、体調はなかなか戻らず、日常生活のしづらさが続いていたのです。
■ きっかけは、同級生のお母さまの紹介
そんな中、過去に起立性調節障害で当院に通っていた同級生のお母さまから「同じような症状でよくなった子がいる整体院がある」と聞き、当院にご相談いただきました。
初めての来院時、本人は非常に姿勢が悪く、身体の緊張も強い状態でした。
■ やさしい整体:操体法とクラニオセイクラルワーク
当院では、体に負担をかけない優しい施術を大切にしています。
この方にも、まずは呼吸に合わせて体の動きを整える操体法と、頭蓋・背骨・仙骨の微細な動きを整えるクラニオセイクラルワーク(頭蓋仙骨療法)を中心に施術を行いました。
■ 一度の施術での変化に、お母さまも驚き
施術中、体がゆるんでくると同時に、本人は「気持ちいい」「かなり眠くなった」と話されました。
これまでずっと緊張していた体がようやく安心し、リラックスモードに入ったのです。
施術が終わったあとは、目に見えて姿勢が変化。これには同席していたお母さまも「あれ?座り姿勢が全然違う!」と驚かれていました。
本人も「頭と肩が軽くなった」と、久しぶりに笑顔を見せてくれました。
その後も継続して通院して、快方に向かっています。
■ まとめ:整体は回復を支える“土台作り”
このケースからもわかるように、脳脊髄液減少症に対して整体が直接的な治療を行うわけではありません。
ですが、手術後に残る「なんとなく調子が悪い」「回復が遅い」といった症状に対して、身体を整えることで回復力を高めるサポートは可能です。
特に、成長期の子どもたちは心と体のつながりがとても繊細です。安心できる環境と、優しいタッチでのケアが、心身の深い部分からの回復を引き出してくれます。